教員インタビュー

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打越先生

本業は大学教員
副業はNPO団体の理事長。
軽井沢でゼミ生とともに大活躍

法学部教授

打越 綾子
(うちこし・あやこ)

行政学、地方自治論

 政治や行政を教える大学の研究者は全国にいるが、打越先生はかなり異色の研究者である。理論だけでなく現場、都市だけでなく農村、さらには動物行政の研究…。以下では、そんな打越先生の研究テーマとお人柄を紹介したい。

【人生の転機】

 政治や行政の研究、その中でも地方自治体の政治行政の研究を主たるテーマとしてきた打越先生は、行政の予算編成や公務員人事、行政組織内の調整メカニズムをターゲットに研究を続けていくはずであった。しかし、30代半ばにさしかかる頃、人生の転機が3つ立て続けに訪れた。

 まず1つ目は、内閣府の委託事業として、過疎化が進む中で地域の活性化に努力し成功している地域の事例を取材するという仕事を引き受けたこと。それまで都市部の研究をしてきた先生にとっては慣れないテーマであったが、取材を重ねるうちに、農村部の底力に感銘を受けていく。

 2つ目の転機は、愛猫との出会いである。それまで動物を飼ったことのなかった生活が大きく変わり、その後、猫の数は増え続けて現在5匹の猫と暮らしているとのこと。改めて勉強すると、動物の置かれている厳しい状況に心が痛んだ。そこで、政治や行政の観点から、動物をめぐる公共政策を研究してみようと考えるようになったという。

 3つ目の節目は、長野県軽井沢町への移住である。軽井沢の美しい自然に心を引かれ、東京に帰れなくなったという。地元人情の温かさと豊かな自然環境に支えられて、軽井沢と成城を往復する日々。軽井沢町のご案内であれば、観光雑誌に載っていないような穴場を案内してくれるとか。

【現在の研究活動】

 こうした中、現在の研究のキーワードは、「軽井沢でのフィールドワーク」となっている。

 第1に、都市部から農村部へと関心を移したにせよ、地方自治体の政治行政の現場に関わり続けているという。軽井沢町で政治行政に関する研修講師を引き受けたり、首長選挙の際に公開討論会の主催を引き受けたり…。 第2に、軽井沢における野生動物問題の解決に尽力している。2009年には「軽井沢野生動物問題研究会クロス」という団体を立ち上げ、多様な立場の人々をメンバーにして、野生動物と人間の関係を立て直すための活動を行っている。

 第3に、上記の軽井沢での活動を、成城大学のゼミの応用場面として位置づけている。例えば、軽井沢では、野生動物の生息地を守り人間側の被害を防ぐために、見通しが悪くなった森林を整備しているが、作業の主役はエネルギーみなぎるゼミ生たちであり、その勢いに乗って、行政職員や地元住民が参加してくれるとのこと。上述の選挙の公開討論会も、実は、打越ゼミ有志主催で行われた。

 このように、官と民、都市と農村、専門家と一般住民、世代を超えた交流を図りながらの活動が、打越先生の活動スタイルと言えそうだ。ゼミを卒業した後も学生との縁はずっと続くという情熱的な先生の授業を、卒業するまでに一度は受けてみてはいかがだろうか。

肉体労働のできる知能集団。地元住民から愛される卒業後も仲良しの不思議なゼミ

 打越先生が担当する演習・ゼミナールには、2年次の学生のために開講される基礎演習と、3/4年次の学生のために開講される専門演習がある。

【基礎演習】

 基礎演習のテーマは、「動物行政の研究」である。文字通り、動物をめぐる公共政策を勉強する。

 前期の基礎演習Aでは、私たち人間に身近な動物としてのペット問題を取り上げる。ペットブームによる様々なトラブルや、保健所で致死処分される犬や猫の問題、あるいはペットをめぐる近隣紛争や医療過誤問題など、扱うトピックは多岐にわたる。さらに、警察犬や身体障害者補助犬など、人間のために役目を果たす動物たちのことも勉強する。

 後期の基礎演習Bでは、野生動物や畜産動物など、日常生活においてあまり意識しない動物たちの問題をテーマにする。野生動物については、絶滅危惧種や外来種問題、あるいは野生動物による人間生活への被害問題など、課題も多い。畜産動物については、農業政策、食糧政策、貿易政策など、背景となる知識や情報が幅広く求められる。

【専門演習】

 専門演習のテーマは、「地方自治体の公共政策・政治行政の研究」である。先生の本来の専門テーマをモチーフにしたゼミであり、1年間を通じてのゼミとなる。

 このゼミでは、福祉、医療、雇用、環境、教育、金融、防犯、災害、交通、住宅、農林漁業、観光などの多様な政策分野について、先進的な自治体の取り組みに関する資料を読んでいく。

 また、多様な政策分野に関わってくる自治体の政治行政の関係者そのものを学ぶ年もある。例えば、都道府県知事や市区町村長、地方議会議員などは、どのような人々がどのような選挙を通じて選ばれてくるのか、自治体の行政職員には、どのような職種やポジションがあり、彼らはどのようにして仕事を遂行しているのか、こうしたことを学んでいく。

 打越先生の専門演習のクオリティは高い。与えられた資料を3週間前から読み進め、報告本番にはレジュメ資料を15ページ程度準備し、しかも一人で40分にわたって説明しなければならない。準備には相当の精神的・肉体的な負担がかかる。とはいえ、先生による徹底した指導が行なわれるため、いつの間にか、情報収集や整理方法、プレゼンテーションのノウハウが身に付くようになっている。これらの能力は、将来の進路にかかわらず、社会人になったときに威力を発揮する。

 専門演習について特筆すべきは、年に1~2回のゼミ合宿があるということである。いずれも軽井沢で行われるが、その際には、公共政策の研究の応用として、多様な立場の人々ともに地域の現場活動に参加する。地域とのご縁ができる中で、卒業したゼミ生にとっても、軽井沢町が第二の故郷になっているという。

メッセージ

「部活動やサークル活動に精一杯力を注ぐことは、授業に出席するのに勝るとも劣らぬ重要な経験だと思います。多数の友人を見つけて、また社会問題に対する関心を持つ姿勢を持って欲しいですね。」