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浦山先生

活発な議論、意見交換で深める
法哲学

法学部教授

浦山 聖子
(うらやま・せいこ)

法哲学・多文化主義、グローバル・ジャスティス

「分かりやすい例で言うと、マイケル・サンデル教授『ハーバード白熱教室』ですね。サンデル教授が扱っているテーマは法哲学の他に経済哲学・政治哲学などの分野もありますが」と伺って、なるほど。

 法律に関わる、あるいは法律で解決しようという様々な問題を、あらゆる視点、多様な方向から検証し掘り下げてみる法哲学。英米の現代正義論を主な専門としている浦山先生は、現代に起こる諸問題、例えば社会保障給付のあり方といった比較的身近な問題から、分離独立運動、移民の受け入れのような結論の難しい問題まで幅広いテーマに取り組む。

 答えを出す、解決策を探る、という分野とは違い、考えてみること、それを言葉にすることが主な学習となる。そして、自らの考えを発表すること、他の人の意見に耳を傾けるといった、相互の意見交換で、法律の根源、法律の原理を追求していく。

 リベラルとして知られる恩師、井上達夫先生の授業が魅力的だったため、法哲学への興味が深まり、この道に入ったという浦山先生。哲学という抽象的な世界だけに、現代社会で実際に起こっている事件や社会問題として学生たちに興味を持ってもらいたいと、新聞や雑誌などの記事からテーマを厳選し、切り抜きやコピーを配布。さまざまな角度からの発言を期待している。

これからさらに問題が増える可能性のある多文化主義

 広範に及ぶ法哲学の中でも、浦山先生は、一つの国の中に、慣習、歴史、伝統、価値観などあらゆる部分で異なる文化を持つ集団が複数共存する場合、どのような法・政治制度があるべきなのか、また、あり得るのかと考える多文化主義をテーマの一つとして研究している。

 先進国の中では極端に外国人居住者の少なかった日本だが、近年になって大幅に増加。異文化間で起こりうる問題を法律が解決するためには、どうあったらいいのか、どうあるべきなのか、ということは、身近な問題として考える時代に来ている。

 そして、学生時代に、多文化主義を学ぶ上で、原理的な部分だけでは限界があると考えた浦山先生は、多文化主義発祥の地とされるカナダへ留学。移民の問題やフランス語圏の問題を目の当たりにし、法哲学といえども、より具体的な部分で考えることの必要性を感じたという。

 カナダ留学で興味を抱いたのが、ケベック州は北米のフランス語憲章。ほとんどの地域が英語圏なために、英語だけの国と思われがちなカナダだが、ケベック州は北米で唯一残されたフランス語圏。そして、ケベック州の人たちは自らのアイデンティティでもあるフランス語を守っていこうと考え、州独自の「フランス語憲章」で使用言語の規制を制定した。例えば、道路標示や広告など基本的にはフランス語かまたはフランス語に英語を小さく添えるといった具合。ところが、それは、表現の自由を認める国の憲法と合致しないという問題が起きてくる。そう言った難しさに、研究テーマとしての意義や面白さを見出したようだ。

 カナダの法律自体まだ日本人研究者の少ない分野なだけに、参考資料も少なく、やりがいもある分、難しさも多い。少しずつ、蓄積し、今は、この問題に関する論文を書き上げることが、目標でもある。

気分転換……のはずの趣味がたいへんで、と楽しんでいる様子

 子どもの頃にピアノを習っていたという浦山先生。ピアノはあまり弾かなくなったとおっしゃるけれど、音楽はやはり今でも好きということで、続けているのが「リート」。ドイツ語で「歌曲」を意味する「リート」は音楽用語では、古典派以降、18世紀末に起こった芸術性の高い歌曲を指すことになる。

「歌うとなると、やはりドイツ語ですから、辞書を引いて意味を調べることも必要ですし、なにより、発音がたいへんなんです。ドイツ語には、口語と舞台語があって、歌曲は舞台語の発音で歌います。そうなると、口語とは発音が違ってくるんです。それで、ストレスになっちゃう(笑)」

 何事もちゃんとやらないと気が済まない、例え趣味だとしても片手間で終わらせることができない、という様子が伝わってくる。「ちゃんとやらないと先生に怒られるから」と笑いつつ、実はご自分自身が納得できないのだろう。その大変さを越えたときの充実感が楽しみなのだろうと思わせられるお話だ。

メッセージ

「法哲学、つまり、哲学は、あらゆることが対象となりますし、あらゆる視点で考えてみることが必要となりますので、まず、いろいろなことに興味を持って見てみるといいでしょう。様々な世界を知ることで、多様なものの見方があることに気づかされます。 そして、本を読むこと。日々さまざまな情報が飛び込んで来る時代ですが、じっくり活字を追うことは、情報を選択する、行間を読む、哲学を学ぶものに取って大切な想像を膨らませる訓練にもなります。」